第2章 第十堰の治水問題とその対策
本提案書は、あくまでも環境アセスの代替案の提言を行うものである。しかし、代替案の妥当性の検討は、環境の観点からのみ行うことはできない。事業目的と環境という二つの側面からの考察があいまって、初めて代替案の妥当性が検証されるからである。本章では、第十堰事業の目的、必要性に関する議論を展開するが、その目的は、事業目的そのものに遡及することにあるのではなく、環境保全の見地から代替案に関して提案を行う上で必要な最低限の言及を行うことにある。
建設省によると、現第十堰には(1)堰上げ、(2)老朽化、(3)深掘れの3つの治水問題があるとされている。本章では、幅広く代替案のあり方を検討するための前提として、これらの治水問題の特徴と解決策についてまず考察する。これらの点については、建設省と市民団体である吉野川シンポジウム実行委員会(以下「吉野川シンポ」と略記)との間で見解の相違があり、現在に至るまで議論の決着を見ていないことから、両論併記の形で、議論を進めることにする。
1. 堰上げ問題
○建設省によると、現堰が存在することにより、計画高水が流れたとき洪水位が高くなり、堤防の安全性が低下するため、何らかの対策が必要であるとされている。
| 建設省と吉野川シンポとの主張の違い(16km地点で水位差70cm) |
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建設省 ・現堰による堰上げにより、計画高水19000m3/sが流れた場合、16km地点で計画高水位を42cm上回る |
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吉野川シンポ ・建設省の計算モデルは過去の4回の洪水全てにおいて、16km地点で約1mの誤差があり不正確である。正しく計算すれば、16km地点では約30cm計画高水より低くなる。 |
建設省と吉野川シンポとの主張の間には、水位予測について、上記のような差がある。吉野川シンポが指摘しているように、実際の洪水位と再現計算水位の間に1mもの誤差があれば、当然計画洪水流量19000m3/sが流れた場合においても、建設省の計算結果には相当の誤差があるものと考えるのが自然である。しかしながら、ここでは議論をすりあわせるため、敢えて、建設省の計算結果を前提にして対策案を考察する。水位が高くなることに対して、(1)堰を撤去、あるいは、(2)固定堰の位置を変えたり堰高を低くするなどによって、水位そのものを下げる方法、(3)水位が高くなる分、堤防を補強(嵩上げ)する方法が考えられる。
(1)堰上げの原因である固定堰を撤去(造らない)
堰上げの原因である固定堰(現堰)そのものを撤去することによって、洪水位を下げるものである。堰を撤去した場合、洪水位は計画高水位(堤防の危険ライン)より余分に下回るが、旧吉野川へ分水するため、次のような対策を講じる必要がある。
@可動堰を新たに建設する
可動堰は鉄のゲートを上下させ、平常時は水を貯めて旧吉野川に水を送り、洪水時にはゲートを引き上げて洪水の流下に支障にならないようにするものである。
A旧吉野川の分派口を上流に付け替える
現堰を撤去し、上流の柿原堰から分流する。
この方法については、建設省四国建設局「第十堰改築事業代替案について」(以下、「代替案について」と略記)において記述されているように、より大きな社会的影響や環境悪化の生じる可能性が考えられる。
(2)堰上げが少なくなるような位置、高さの固定堰に改築(改修)
建設省の計算によれば、計画高水が流れた場合、現堰があることによって計画高水位を超えるのはわずか42cm(吉野川シンポの計算では越えない)であることから、旧吉野川への分流に支障のない範囲で、堰の高さを切り下げたり、改築位置をできるだけ上流に移すことで、計画高水位以下に水位を下げる。
現堰補修
現堰の不必要に高くなっている部分を切り下げる。(上堰の高さAP(阿波工事基準面)5.1〜6.4m、下堰の左岸側AP+5.1〜5.5mを、AP+5.0m以下の高さへ切り下げる。旧吉野川への分水位は変わらない。
固定堰改築案
堰の位置を上流に移すことで河床からの突出高さが抑え、堰上げを少なくする。
| 旧吉野川の分派口は河口より15.6km地点であるが、現堰は河口から14.2〜14.8km地点(中心位置14.5km)に設置されている。そこで、可能な限り旧吉野川分派口に近いところ(15.0〜15.2km地点)に移す。計画河床勾配が1000分の1であるため、1km上流に移すと堰の高さを1m低くできる。 |
(3)堤防を補強(嵩上げ)
現堰を残した場合、計画高水位を上回る分(最大42cm)に見合う堤防補強を行うことで、堤防の安全性を高めるものである。堤防は、現状のままでも十分高いため、嵩上げはほとんど不要である(1997年7月11日の「参議院議員竹村泰子君提出 徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問に対する答弁書」(以下、「国会答弁書」と略記)によると、堤防嵩上げを必要とするのは16km地点左岸のみであり、その高さは6cm)。
建設省は現堰を残した場合に必要な嵩上げ補強について、次のような理由から、治水上問題があるとしている。この点に対する評価は後に行う。
(1)補強のための用地買収が困難である(社会的影響が大きい)。
(2)嵩上げすると、破堤した場合洪水がより高い位置から流れ込み、危険である。
(3)治水の基本は(可動堰を造って)計画洪水位を下げることである。
| 固定堰による改築のポイント |
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改築位置 ・堰の高さが一定の場合、上流ほど堰上げが少なくなる。 ・改築位置は現堰上流、現位置、現堰下流に分けられるが、堰上げおよび堰本体の規模ともに、現堰の上流が最も小さくなる。改築位置を13km地点とするのは、可動堰とした場合に橋を併設する必要から生じたもので、同地点における固定堰による改築では、堰上げが大きく、大規模な堤防嵩上げが必要となる。 |
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堰の高さ ・堰の高さについての検討はなされていないが、固定堰による改築では当然のことながら、堰高を低くするほど治水面、経済性において有利となる。・現堰上流での水位は渇水時においてAP+4.3mまで低下するが、この水位では取水に影響がでていないので、余裕を見ても堰の高さをAP+4.5mまで切り下げることが可能である。 |
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向き(斜め堰、直堰)の選定 ・斜め堰となるのは現堰補修の場合であり、何らかの護岸補強が必要となる。全面改築であれば直堰は護岸補強が不要になるので、堰の改築位置と併せて堰の向きを検討する必要がある。 |
2. 老朽化問題
現堰は旧吉野川への分水機能を有している。建設省は、現堰が老朽化しているため、いつ損壊するか分からず、もし損壊した場合には旧吉野川に水が流れなくなり、大きな社会的影響が生じるとしている。さらに洪水が発生した場合に、現堰が損壊しなければ、今度は堤防が危険になるとし、現堰の老朽化を放置しているのはこのためであると主張している。
| 建設省と吉野川シンポとの主張の違い |
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建設省 ・現堰はたびたび損壊しており、今後もいつ損壊するか解らない。補修は不可能である。 |
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吉野川シンポ ・堰が損壊した本当の原因は、大量の砂利採取による河床低下である。現在では 砂利採取が適切に抑えられ河床低下がなくなったこと、建設省の復旧工事により、大幅に強度が高まっていることにより、洪水時において水位低下が起きるような大規模な堰の損壊は起こらない。 ・老朽化は、単に建設省が補修していない部分に起こっている現象である。これまで行ったような補修を続けることで、堰は維持できる。 |
(1)全面改築
現堰が老朽化していることに対して、補修が不可能である場合(建設省の主張)には、全面改築を採用することになる(ただし、全面改築は、老朽化の問題とは無関係に、斜め堰による影響を減らしたり、位置を上流に移して堰き上げを少なくするために、実施される場合もある。)。
(2)現堰を補修
建設省の主張とは対立するものであるが、老朽化には補修で対応できるとするのであり、補修に際して強度や景観の改善を併せて行うものである。
3. 深掘れ問題
| 建設省と吉野川シンポとの主張の違い |
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建設省 ・現堰が斜め堰であるため、右岸下流部に深掘れが生じる。堰を撤去すれば解消する。 |
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吉野川シンポ ・深掘れの要因は川の蛇行であり、堰を撤去しても深掘れは無くならない。(資料2−1:建設省「第十堰治水対策位置概略図」参照) |
(1)堤防(根固め)補強
深掘れに対して堤防補強を行うもので、方法については次のような主張の違いがある。
(1)建設省は、現堰を残した場合、ケーソンと擁壁による補強が必要で、その費用は360億円であるとしている。(資料2−1:建設省「治水対策標準断面図」参照)
(2)市民団体は、深掘れは川が蛇行している場所にはどこにでも発生する現象であるから、深掘れ対策についても通常行われている根固め工事の追加で十分対応可能であるとしている。
(2)直堰に改築
建設省は斜め堰が深掘れの原因であるとしているが、川が蛇行し水衝部となっている場所には深掘れが発生するものと考える。川の蛇行による深掘れに対しては、直堰(床止め)を設置することで、河道を安定させ深掘れを減少させることができる。