第3章 建設省代替案の問題点

 建設省は、可動堰と代替案の比較・検討を行った上で、可動堰が妥当であるとの結論を得たとしている。しかしながら、市民アセスの会は、建設省による代替案の検討には、多くの問題が含まれていると考える。市民アセスの会が、環境面での代替案の検討の必要性を主張すると同時に、自ら代替案を提案するのは、建設省の代替案の設定や比較の方法に問題があると考えるからである。

 

 1. 建設省代替案の概要

 建設省代替案は、前章の3つの治水上の問題点の対応を目的としているので、「堰上げ」に対しては、計画高水時の水位を下げる方法かまたは堤防補強、「老朽化」に対しては改築、「深掘れ」に対しては、直堰に改築するか、斜め堰を残した場合には堤防補強で対処するとしている。

 建設省は、(1)現位置固定堰改築案、(2)堤防補強案、(3)引き提案、(4)可動堰案、(5)上流付け替え案という5つの代替案を提示している。しかし、これらの代替案の名称は可動堰案以外は一部の特徴しか語っておらず、しかも、重要な要素である立地点に関する情報を含まないため、内容を正確に伝えるために、それぞれを以下のような名称に変える。

資料2−1:建設省「第十堰治水対策位置概要図」および「治水対策標準断面図」参照)

(資料3−1:建設省「第十堰の治水対策案の比較表」参照)

(1)現位置斜め堰改築案

 現位置で、斜め堰のまま改築し、堰上げには堤防補強をおこなう計画。

このときの堤防嵩上げは、最大6cmである(1997年7月11日の国会答弁書より)。

(2)下流直堰改築+堤防補強案

 13km地点で直堰に改築する。それに伴う堰上げには堤防補強をおこなう。

 このときの堤防嵩上げは、最大で2m34cmとなる(1997年7月11日の国会答弁書より)。

(3)下流直堰改築+引提案

 13km地点で直堰に改築する。堰上げには両岸併せて最大幅400m、長さ9.3kmにわたり引き提を行う。

(4)下流可動堰案

 13kmの地点で可動堰に改築する。漏水対策として新たな湛水区間となる範囲の低水護岸等を設置する。

(5)堰撤去取水口上流付け替え案

幅30m、長さ8.5kmにわたり水路を開削し、旧吉野川への取水口を上流に付け替える。

 

 2. 建設省代替案の治水計画上の問題点

 建設省はこれらの代替案との比較の下に、可動堰が最良の治水対策であると結論づけている。しかし、これらの代替案の設定それ自体に、次のような問題がある。

(1)現堰の補修(部分改修)が代替案として検討されていない。

 吉野川シンポは、「第十堰老朽化問題に対する見解−環境と治水の両立を目指して−」において、次のように指摘している。

 (1)堰損壊の原因である過剰な砂利採取による河床低下はなくなり、堰は現在では安定している。(資料3−2:吉野川シンポ「砂利採取量と河床変動の経年変化」参照)

 (2)老朽化は、建設省が補修を行っていない部分(全体の約2割)のみの現象である。

 (3)堰の下流には大量の根固めブロックが設置され、堰はより安全になっている。したがって、これまでと同様の補修を継続すれば堰は維持でき、残る堰上げ問題については、堤防強化で対応できるとしている。

(2)改築位置についての検討が不十分である。

 改築位置は上流ほど堰上げが小さくなると同時に、構造物を小さくでき経済的にも有利である。したがって、現堰の上流位置での改築案を検討すべきであるが、代替案の多くが13km地点での改築をベースにしたもので、大変不合理であると考える。

 (1)13km地点での改築は、可動堰としては治水上適地であること、下流とすることで新たな水資源が開発できること、橋と合併することなどのために生じた改築位置であり、固定堰での全面改築位置としては治水上不適当である。

 (2)固定堰による全面改築案であれば、堰の改築位置をより上流(現堰と第十樋門の間)に移した上で直堰とし、右岸の深掘れと同時に堰上げ問題を解決する案が最も有利である。本来の代替案として採用すべきである。

 (3)建設省の代替案の一つである現位置改築案は、全面改築であるにもかかわらず、斜め堰での改築としており、右岸の深掘れ対策に360億円必要になるなど、わざわざ不利な案となっている。

(3)引き提案での堰は、現堰を前提に検討すべきである。

 建設省の引き提案は固定堰を13km地点に造った上で、堤防の引き堤幅や区間を設定している。      

(1)橋(可動堰と合併)は無関係なので、13km地点に固定堰を造る必然性はない。わざわざ引き堤の規模が大きくなるような案となっている。

(2)引き提案では現堰(補修あるいは現位置改築案)をベースに検討するべきである。

引き提案のベースになる堰を現堰とすれば、引き堤は右岸下流部のみで良い可能性が高く、再検討すべきである(資料3−3参照)

以上を総合して言えることは、可動堰に比べて、過度に不利な代替案が設定されていることである。固定堰に関しては、現堰と同等あるいはそれ以上に治水効果を有するものを代替案として設定しなければ、意味がない。要するに、可動堰と比較・検討するに値する代替案が、設定されていないのである。

 3. 建設省代替案の比較・検討における問題点

 建設省による代替案の比較・検討の方法にも、多くの問題がある。ここでは、可動堰案と現位置改築案との比較方法を例にとり、経済比較等について妥当な検討が行われたかを検証する。

(1)工事費の比較検討

 費    目 現位置(斜め堰)改築案
(1)堰本体工事費(老朽化対策) 710億円    520億円

(2)堤防補強費

(堰上げから堤防の安全を図る)

現堰を撤去するので堤防補強は不要となる
   30億円
   100億円
関連工事  340億円
  470億円
(3)深掘れ対策費(斜め堰のため右岸下流に深掘れ) 現堰を撤去するので右岸下流の深掘れは発生しない。 堤防強化(ケーソン+擁壁)360億円
(4)環境対策費  神宮入り江川の浄化  20億円   不要
(5)その他費用
  費   30億円
護岸工事  120億円
地下水対策  70億円
 220億円
  合計工事費   950億円 1,350億円

経済比較表(建設省四国地方建設局「第十堰改築事業代替案について」、14頁より)

建設省はこの表のように、可動堰案が経済性において優れているとしている。しかし、現位置改築案の工事費が高くなった理由のなかで、項目(2)の堤防補強に伴い必要となる費用のうち関連工事340億円(その後の国会答弁書:1997年7月11日では樋門170億円、排水機場45億円、橋梁45億円、その他9億円、合計269億円となっており約70億円の食い違いがある)については、堤防の嵩上げは僅か6cmであること、堤防拡幅の平均幅が6mしかないことを考え併せると、本当に必要な経費なのか大いに疑問である。また、項目(3)の深掘れ対策についても、その原因が斜め堰にあるのか川の蛇行にあるのか議論が分かれていること、さらに1mあたり3600万円もかかるとされている対策費用についても、根固め補強の追加などもっと安価な対策で十分ではないかといった問題点が指摘されていることが重要である。この疑問となっている費用の総額は700億円もあり、これらの費用を再検討すれば、可動堰が経済的に劣るという結論が出る可能性が高い。

  

(2)その他の比較項目について

(1)治水上の評価

 建設省は、可動堰に改築すれば「老朽化、堰上げ、深掘れという治水上の問題をすべて解決できる」のに対して、現位置改築案では「計画を超過して発生する災害に対しては破堤の際に洪水位が高いことから災害のポテンシャルが大きくなる」として、可動堰優位論を展開している。しかし、堤防補強無しの可動堰案では、破堤の危険が残ること、特に想定を越える災害に対しては越水しても破堤しないような強い堤防を構築することが安全の基盤となる。   

 可動堰にすることで水位は低下し堤防の安全度が向上するにしても、その程度はわずかであり、また、可動堰が老朽化しやすく故障などの危険のある機械設備を有することも、きちんと評価の対象とすべきである。

(2)社会的影響

 建設省は、現位置固定堰案では流量19000m/sが流れたときに、堰上げにより計画高水位を42cm上回るため、堤防裏側の法面が浸透水により所定の安全度を確保できなくなるので、堤防裏側の法面勾配が緩くなるように堤防の拡幅(堤防補強)が必要であるとしている。また、この堤防補強には、堤防沿いに平均して幅約12mの用地買収が必要となるため、大きな社会的影響があり、事業実施が困難であるとしている(資料3−4:建設省「堤防補強の概要」参照)。

 しかしながら、県内では高速道路の建設など莫大な用地買収を必要とする社会的影響の大きい事業が、現実に数多く実施されている。さらには岩津上流部で行われている堤防の新設工事であれば、もっと多くの用地買収が必要になってくる。

 したがって、堤防補強のみが他の事業に比較してことさら社会的影響が大きく、実施困難(土地所有者の合意が得られない)であると考える合理的根拠はない。

(3)治水効果の発現時期

 建設省は可動堰建設の10年に対し、固定堰改築案では堤防補強に20年さらに堰の改築に25年の併せて45年とし、可動堰の方が早期に治水効果が発現できると説明している。しかし、高速道路の事業着手から供用開始まで10年で行っている現実をみると、わずか6m、両岸併せて10km程度の堤防拡幅が20年もかかるとは到底考えられない。また、堰の改築に25年というのも、工事方法を工夫しさえすれば、複雑かつ大規模な可動堰建設(工期10年)より短くなると考える方が自然である。

(4)維持管理費

建設省によると、年間維持管理費は、可動堰が約6.9億円に対して、固定堰では約1.6億円となっている。しかし、吉野川と同程度の長良川河口堰の維持管理費が約15億円であることを考慮すると、可動堰の維持管理費は安く見積もられている可能性がある。

逆に、固定堰に要する費用としては、13km地点に固定堰を建設し大規模な堤防嵩上げを行った場合に必要な排水機場増強などに伴う費用、要するに最も多額となる場合の費用を代表させている。それでも、可動堰は固定堰に比較し、著しく不利となっている。

 年当たり維持管理費は、建設費に比較すれば少額であるが、維持管理費は永遠に必要な費用であり、そのほとんどは地元が負担しなければならないことを考え合わせると、それは重要な比較要素である。建設省は、可動堰に有利になる項目については、代替案の比較・検討の要素に入れているが、不利になる維持管理費については、比較の対象としておらず、問題である。

(5)環境に対する影響

建設省「代替案について」においては、環境面からの代替案の比較・検討は一切なされておらず、極めて問題である。それが環境アセス法上、いかに問題であるかは、既に述べたとおりである。

 ここでは、建設省が可動堰化によって環境上改善されるとしている魚道についてのみ述べる。建設省の説明では、現堰は漏水が多く渇水時には魚道に水が流れなくなるなどの問題があるとし、これに対し可動堰は常に一定の水を魚道から流すので鮎などの遡上条件が改善され、環境に対する影響は少ないとしている。

 しかしながら、代替案の検討であれば、漏水のない現位置改築案との比較をすべきで、建設省の見解に従うと、現位置固定堰案は常に魚道から水を流すことで環境がより良くなり、それに加えて、可動堰のような汽水域の減少や巨大な貯水池による悪影響が避けられるため、環境に関して可動堰案よりはるかに優れているという評価が可能である。

 建設省は、治水上の評価(可動堰のリスクなど)、社会的影響、治水効果の発現時期など数値で表しにくい主観的要素について、全て可動堰優位としている。しかし、これまで見てきたように、建設省による評価は、可動堰に関しては甘く、代替案に関しては厳しいという傾向が一貫して見られ、公平な評価となっておらず、妥当性を欠くものとなっている。また、比較に際しての評価項目もその都度変わり、一貫性が見られないことも問題である。

 代替案を比較・検討し、どの対策が優れているかを論じる場合、重要な項目については都合の良いものも悪いもの(例えば、環境や維持管理問題:維持管理問題については、一応の記述がなされているが、第十堰の治水対策の比較(建設省「代替案について」、12頁)においては、記載されていない。)もすべて網羅した上で、総合的に評価すべきなのである。

 
砂利採取量と河床の経年変化
吉野川百年史および建設省資料より
第十堰関連補修費
建設省から提出された資料をもとに物価上昇を加味したもの

資料3−2:砂利採取と河床の経年変化(老朽化について 吉野川シンポジウム実行委員会)

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