第5章 代替案と可動堰案の治水事業としての評価

本章では、可動堰に対する市民アセスの会代替案の治水事業としての評価を、以下の四つの観点から行う。すなわち、(1)治水(事業目的を達成できるか)、(2)経済性(目的に対して費用が適正か)、(3)社会的影響(用地取得などを含め合意が得られるか)、(4)工期・工事難易度等が、それである。当会の代替案を可動堰案と比較することによって、それらが十分に実施可能な代替案であることを明らかにする。

  

 

 1. 治水技術上の評価

 建設省の説明によれば、現堰は、(1)老朽化により損壊の危険がある、(2)堰上げにより堤防の安全が脅かされる、(3)堰直下流右岸に深掘れを起こすとされている。この3つの治水問題に対し、前章代替案の選択において治水上の基本条件を設定し、条件により合致する代替案として2案が浮上した。したがって、当然その選択過程において、治水技術上の問題が解決できる代替案となっていることになる。ここではその要点を述べ、各代替案の治水上の評価を行う。

(1)現堰補修案

現堰は補修可能であり、老朽化箇所は補修を行う(吉野川シンポ「第十堰老朽化問題に対する見解」)ことで対応できると考えるものである。補修案であるため、多少の堰上げや右岸下流の深掘れという治水の問題が残ることになる。堰上げに対しては、建設省の計算結果を前提としたとしても、現位置改築案と同様な堤防補強(一部で嵩上げ約6cm)を行い、深掘れに対しては根固め補強などを行うことで解決する。

現堰補修案の治水上の評価で問題となるのが、洪水位が現状と同じある(下げられない)ということである。

(2)直上流固定堰改築案

 老朽化に対しては改築することで対応するので、残る治水上の問題は、(2)堰上げと、(3)深掘れ問題がどうなるかである。

 堰上げについては、上流で改築するので、見かけ上の堰高を低くすることができる(約1m相当)。また、15km付近は川幅が広くなっているため、洪水の越流幅が広く(単位幅あたりの越流量が少なくなる)なる。 

 このため現状に比較して洪水位を低下させることができ、計画高水19000m/sが流れた場合でも、計画高水位を下回り堤防の安全が確保できると考える。もう一つの深掘れ問題については、これまで述べたように直堰とする事により解決できる。

(3)固定堰と可動堰の治水上の比較・評価

 (1)固定堰と可動堰の洪水位

建設省は治水技術上の評価を洪水位が低下できるかどうかだけの視点でおこなっている。確かに水位を下げることは治水技術上最も重要な観点ではあるが、その前に可動堰によってどれくらいの範囲でどの程度下げることができるかをきちんと把握しておく必要がある。計画高水流量19000m/sが流れたとき、現状のままでの水位と可動堰建設後の水位は、次の表のようになる。

  現状の水位と可動堰建設後の水位 (単位:m)

地点(km 13.0 14.0 16.0 17.0 18.0 19.0 20.0
(1)現状(建 ) 9.82 10.15 13.52 14.33 15.14 15.95 16.54
(2)現状(吉野川シンポ) 9.82 10.15 12.83 13.86 14.78 15.67 16.36
(3)可動堰建設後 9.91 10.37 12.09 13.45 14.56 15.54 16.23
水位差(2)−(3) -0.09 -0.22 0.74 0.41 0.22 0.13 0.13
計画高水位 10.42 11.23 13.10 13.95 14.85 15.73 16.62

現状(1)の水位データは建設省資料による。

    現状(2)の水位データは平成10年5月吉野川シンポ発表資料による。

    15km地点の水位データがないのは現堰が斜め堰であることから、堰付近では

    計算水位と実際の水位との差が大きく計算結果が信頼できないためである。

    可動堰建設後の水位は建設省資料(平成10年6月提供)による。

 現堰がある場合の水位について、上表のように建設省と吉野川シンポとの計算結果は異なる。第2章で述べているように、建設省の計算は過去の洪水において、計算水位に約1mの誤差があることが知られている。計画高水が流れた場合においても当然大きな誤差があるものと考えられる。したがって、可動堰建設による16km地点より上流での水位低下の評価については、実際の洪水位と計算水位がよく一致する吉野川シンポの計算結果を用いて行うものとする(資料5ミ1:吉野川シンポ「S.49洪水時痕跡水位比較」参照)。

S49洪水時痕跡水位比較
資料 5−1 吉野川シンポジウム実行委員会 H10.5.12

 上表を見ると、現堰を撤去し可動堰を建設した場合の洪水位は、13〜14km地点では逆に水位が最大で22cm上昇し、16km地点では最大約70cmの水位低下があるが、上流に行くに従い低下量は減少し、20km地点でほぼその効果がなくなることがわかる。このように、可動堰建設による治水効果は堰上流約5km区間に限定される。

 可動堰に改築する場合の治水効果は水位低下のみであるが、上記のように水位低下は少なく治水効果はそれほど大きいものとは考えにくい。

 (2)治水技術の信頼性・確実性、永続性(持続可能な治水事業)

 固定堰の場合、可動堰と比較すると水位低下はやや少ない。しかし可動堰とは異なり老朽化や故障などの危険がないこと、また事故や想定を越える災害に対しても単純な構造であることから信頼性の高い治水工法である。

このように現第十堰が抱えると言われている治水上の問題は、現堰補修案では堤防補強などの個別の対策をとることで対応可能である。また、直上流固定堰案は改築に伴い同時に全て解決できる。したがって、治水上の観点において、治水目的を達成できる実施可能な代替案と考えられる。

 

 2. 経済性の評価

(1)工事費

 これまで述べてきたことを整理した上で、直上流固定堰案と現堰補修案の建設(補修)

費用を推定すると、次のようになる。

費 用 直上流固定堰案 可動堰案 現堰補修案

(1)堰本体工事費 

(老朽化対策)

300億円 710億円 魚道,損傷部分補修 30億円

(2)堤防補強費

(堰上げから堤防の安全を守る)

洪水位が十分低下

堤防補強は不要

工事費  30億円

用地費 100億円

関連工事 20億円

合計  150億円

(3)深掘れ対策費 直堰とするので右岸下流の深掘れは発生しない

根固めの追加など

20億円

(4)環境対策費 不要 支川浄化 20億円 不要
(5)その他費用 護岸工事 60億円

護岸工事 120億円

地下水対策70億円

用地費 30億円

合計工事費 360億円 950億円 200億円

維持管理費

(年間)

0.2億円 6.9億円

排水機場 0.4億円

本体維持 0.2億円

合計   0.6億円

 直上流固定堰案の本体工事費300億円およびその他費用60億円は、建設省「代替案について」、14頁および「国会答弁書(1997年7月11日)」より推定したものである。現堰補修における関連工事のうち、橋、樋門などの改修は堤防嵩上げが最大で6cmということを正しく判断すれば、大部分は別の対策で対応可能と考えられる。真に必要な関連工事費用としては、内水被害軽減効果のある神宮入り江川排水機場ポンプ増設費11億円及び併設道路の付け替え費 また、堤防強化の360億円は、過大な対策を前提としたものなので見直す。これまで行ってきた通常の根固め補強(総額10億円投入)で十分強化されていることを考慮すれば、今後の追加工事を最大限これまで行ったと同程度のものとしても(同規模の追加を行うと堰直下流はブロックなどで覆われ、深掘れしようにも深掘れする場所がなくなる)、追加費用は20億円以内(物価上昇考慮)と考えられる。

 比較検討の結果、現堰補修案は、建設省の現位置改築案(斜め堰)のうち堰本体の改築費用520億円が部分補修30億円となり、関連費用を含めても最も経済的に優位となる。また、上流固定堰改築案については、360億円と可動堰案に比較するとはるかに経済性に優れているという結果になった。

(2)維持管理費

(1)現堰補修案

 維持管理に必要な費用は、現堰の補修費と先に説明した増設したポンプ場の維持費となる。本体の維持補修費は、現堰の昭和50年から現在までの復旧費約4億円(物価上昇を考慮)を年当たりに換算して、0.2億円とした。増設したポンプ場の維持管理費は、建設省「代替案について」では3カ所で1.6億円となっているが、神宮入り江川のみとすると規模も小さいので約0.2億円となる。したがって、維持管理費の総額は約0.4億円となる。

 (2)直上流固定堰案

 本体については全面改築するため、補修費は必要ない。現堰保存部を考慮すれば、この維持には現堰維持案と同じ程度の0.2億円と想定できる。

 

 3. 社会的影響

 社会的影響が問題になるのは、堤防強化に必要な用地の取得である。建設省の資料によると、堤防強化に必要な用地幅は平均約12mとなっているが、真に堤防拡幅に必要な用地幅は、水路設置幅の約6m(「国会答弁書」:1998年8月21日)を除く、残りの約6mでしかない。水路設置幅を除く理由は、漏水量あるいは漏水による影響が少ないから現在堤防沿いに水路が設置されていないと判断できるからであり、また、堤防拡幅を実施すれば、漏水量はこれに伴ってさらに減少すると考えられるからである。また、仮に水路を新設する必要があるとしても、堤防際に設置される水路の内幅は50cm程度までが適当であることから、水路設置に必要な用地幅は、1mもあれば十分である。このことから、堤防補強に必要な用地幅を適正な幅に改めると、社会的影響は大きく減少するものと考えられる。

 さらには、現在堤防に併設されている道路は狭く危険であり、地域住民からも改善するよう要望が出されているが、堤防拡幅することで同時にこの問題も解決するようにすれば、社会的影響をより少なくすることができる。

したがって、堤防補強に必要な用地取得が、他の事業に比較して、住民の理解が得られないほどに大きいものとは考えられない。

 

 4. 工期・工事難易度、その他の評価

 治水上の評価として、効果の発現時期、工事の難易などが考えられる。

(1)現堰補修案

現堰補修案は、既に存在する堰を緊急度の高いところから補修するものである。現堰については、既に本体全体面積の約8割が、建設省によって強固に補修されている。このため、現堰補修に必要な工事期間に関しては、過去の工事実績から推定すると、3〜5年程度で魚道や老朽化部分の補修を終えることができると考える。

 洪水に対する安全確保については堤防補強により行おうとするものであるから、治水効果の発現時期は、堤防補強の工事期間で決まる。堤防補強には用地の取得が必要であるが、高速道路の建設に見られるように人員を集中的に投入すれば早期に完了させることができる。道路工事と河川工事を一概に比較することはできないが、四国縦貫自動車道95km間の開通に要する期間が工事着手から12年と予定されていること、さらに堤防補強工事は遙かに小規模工事であることや区間が左右岸あわせて10kmと短いこと等から総合的に判断すると、5年程度で補強工事を終えることが可能と考える。

工事の難易度については、堰の補修や堤防補強はこれまで行ってきた実績があり、技術的にはこれまで行ってきた工事の延長であるから、地元の業者で十分に実施可能である。それに対して、可動堰の建設は県外大手ゼネコンや電気機械メーカーでなければできない高度な施工技術を要するものである。

 (2)直上流固定堰案

 直上流固定堰改築に要する工事期間は、可動堰に比較し規模が小さいことや構造の単純さを考慮すると、可動堰よりはるかに短くなると考えられる。

 工事の難易度についても、複雑な可動堰建設より遙かに容易であり、現堰補修と同程度と考えられる。

 5. 総合評価(「第7章、4.総合評価、(2)治水面の総合評価比較表」参照)

 以上の検討から明らかなように、市民アセスの会代替案2案は、現堰治水上の問題解決という目的を達成できると同時に、経済的にも可動堰案に比較して優れている。社会的影響については現堰補修案が問題となるが、道路の拡幅に活用することや用地取得面積が少ないことから、問題はないと考えられる。工事実施上の問題も、現在の土木技術からすれば問題は考えられず、むしろ可動堰の方が技術上の問題が多いという見方もできる。

したがって、当会の代替案2案は、環境アセス上の代替案となりうるばかりか、事業計画上の観点からも、可動堰に比較して優れた特徴を持つ、実施可能な代替案であると考えられる。

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