本章の構成

1.代替案の提案

 (1)代替案の提案
 (2)現堰補修案の概要
 (3)直上流固定堰案の概要


代替案と可動堰の環境影響の違いは?


2.環境面の評価

 (1)貯水量の影響
 (2)堰の構造・高さの影響

代替案が環境の保全には適している

代替案で治水は可能でしょうか?


3.治水面の評価

 (1)「老朽化」と「異常深掘れ」の対策
 (2)固定堰の「せき上げ」は問題ない


代替案は実施可能な治水事業である



総合評価 代替案は環境と治水の統合案である


4.総合評価

 (1)環境面の総合評価
 (2)治水面の総合評価

・現堰補修案のイメージ
・直上流固定堰案のイメージ
・(参考)可動堰案のイメージ

1.代替案の提案

(1)代替案の提案
 市民アセスの会は、可動堰案以外に、環境面でよりよい代替案は存在しないのだろうかという疑問から始まり、本提案書でこれまで述べてきたような考察を経て、2つの代替案を当会の代替案として、決定するに至った。

2つの代替案は

 ・可動堰案と比べて、環境影響を大幅に回避・低減している。

 ・治水面から見ても、十分に実施可能なものである。

 ・当会が目指した環境と治水の統合という目標を達成する代替案である。

よって、以下のように提言する。
[吉野川第十堰環境アセスメントにおける代替案提案]

吉野川第十堰市民環境アセスメントの会は、第十堰事業にかかわる環境アセスメントにおいて検討されるべき当会の代替案として、以下の2つの案を提案する。

*「現堰補修案」
*「直上流固定堰案」


 これらは、可動堰案と比べ、環境影響を大幅に回避・低減する実施可能な代替案であり、環境と治水を統合する代替案であると、当会は判断し、提案する次第である。

1.代替案の提案 (2)現堰補修案の概要
現堰補修案
   

 

●現堰補修案は吉野川シンポジウム実行委員会の案を妥当と考え、採用した。

●第十堰の歴史的な連続性を積極的に評価して継承維持していくには、維持補修を続けるという方法が適している。

●問題のある部分を強化し、安全度を高めたり、表面を青石で覆うなど景観面での改善も併せて行う。

●漏水が多いことや魚道が十分でないことに対しても漏水防止や魚道の改善工事を行うことで、堰を維持していく。

●当初には、北岸から魚道まで(堰全長の約2割程度)を計画的に堰体の強化及び魚道改修、青石張りによる景観面の改善維持工事を行う。

●その後はこうした維持工事を、工事の度に慎重に環境への影響の最小化を確認しながら、繰り返し行うこととする。


1.代替案の提案(3)直上流固定堰案の概要
直上流固定堰案(親子堰案)

●治水面で堰上げ問題を解決し、現堰右岸の深掘れを防止するため、現堰上流(15キロメートル付近)で直堰に改築し、治水安全性を高める。
●現堰を潮止め堰として保存することで、現在の環境(淡水域と汽水域)の改変を最小化する。
●現堰の環境面と文化面の歴史的な価値を可能な限り継承するため、川面からの堰の高さを昔の高さまで切り下げ、保存する。
●砂利採集で河床低下が生じる以前の第十堰の環境及び景観を再現する。

●新堰(子堰)
 新堰の機能は旧吉野川への分水及び周辺地域への地下水の影響を最小化することである。そこで、新堰の天端高さはA.P4.5〜5.1メートルとする。
●現堰(親堰)
 現堰の機能を潮止めのみとする。
 現況河床安定のための床止め(落差工)としての役割と潮止め堰として、現堰は洪水の支障にならない高さ(天端高さA.P2.0〜2.5メートル)に切り下げて現地保存する。


2.環境面の評価(1)貯水量の影響


[可動堰案]

○下流の可動堰案は貯水池が大きくなり、水の滞留時間が増え、水質悪化、生物に悪影響を生じる。


[現堰補修案]

○現堰補修案は貯水池は現在のままであり、水の滞留時間、水質、生物の環境は変わらない。


[直上流固定堰案

○直上流固定堰案は現在より貯水池が小さくなり、水質改善、生物によりい環境となる可能性がある。


[現堰補修案]と[直上流固定堰案]は現在の環境を保つ。[可動堰案]は現在の環境を悪化させる。

2.環境面の評価 (2)堰の構造・高さの影響
可動堰による環境
●人工の巨大な滝ができ、生物の移動は不可能であることから、必ず魚道を設ける必要が出てくる。
●機械的に水をせき止め、川を切断するため、川の美しい流れにとっての異物となり、景観上ダメージが大きい。
●水循環が断たれるため、大量の水が滞留し湖の生態系に変化し、水質が悪化する。
●機械設備を保護する必要や危険があるため、人の立ち入りは制限され、自然とのふれあいが失われる。

 

固定堰による環境
●堰部分を自然河川に存在する一種の早瀬(急流)の環境とすることが可能で、魚類などの移動に対する悪影響を低減することができる。
●堰上流の河床低下を防止できるため、大量の水を貯めることがなく可動堰より水質の悪化が少なくなる。
●川の流れに溶け込み一体感のある景観とすることが可能であり、美しい川の風景を保全できる。さらに、堰そのものを人と自然のふれあい空間とできる。
固定堰で高さが低い[現堰補修案]と[直上流固定堰案]は巨大な可動堰案に比べ、川の環境によくなじむ。


3.治水面の評価(1)「老朽化」と「異常深掘れ」の対策
現堰補修案
○老朽化対策
●老朽化を理由に改築する必要はなく、老朽化には補修で対応できると考える。補修に際して強度や景観の改善を併せて行う。
○深掘れ対策
●深掘れは川が蛇行している場所にはどこにでも発生する現象であるから、深掘れ対策についても、通常行われている根固め工事の追加で十分対応可能であると考える。
直上流固定堰案
○老朽化対策
●改築するので、結果として老朽化は問題とならない。
○深掘れ対策
●川の蛇行による深掘れに対しては、直堰(床止め)とすることで、河道を安定させ、深掘れを減少させる。



[現堰補修案]と[直上流固定堰案]共に老朽化及び異常深掘れに対処できる。


3.治水面の評価(2)固定堰の「せき上げ」は問題ない
固定堰は、一種の床止め(河道を安定させる機能を有する)と考えられ、重要な治水対策効果がある。「せき上げ」も生じるが、固定堰の位置を上流にするか、堤防を補強するかで解決する。一方、可動堰は大洪水時に故障や操作ミスでゲートが上がらないときは、堰高の高い固定堰と化し、「せき上げ」による大災害の危険性がある。
せき上げ対策
堤防の補強などの「せき上げ」対策のない可動堰案は、ゲートが上がらないとき大災害の危険がある。
現堰補修案は「せき上げ」が生じても、堤防補強により、治水上問題のない安全な固定堰である。
直上流固定堰案は「せき上げ」が生じても、計画高水位を下回るので、治水上問題がない位置、堰高の安全な固定堰である。



洪水による「せき上げ」から生命や財産を守ることは、現堰補修案、直上流固定堰案で可能である。

4.総合評価(1)環境面の総合評価

計画案 環境の現状 現堰補修案 可動堰案 直上流固定堰案
上流湛水域に関する項目 富栄養化 0 0 - +
溶存酸素量 0 0 - 0
底質 0 0 - 0
地形・地質 0 0 - 0
動物 0 0 0 0
 アユの降海 0 + - +
 アユの遡上 0 +

0

(魚道に関して)

+
植物 0 (-) - -
生態系 0 0 - 0
汽水域の特性の保全に関する項目 溶存酸素量 0 0 - 0
底質 0 0 - 0
地形・地質 0 ? ? ?
動物 0 0 0 0
 ヤマトシジミ 0 0 - 0
 シオマネキ 0 0 - 0
植物 0 0 0 0
 アオノリ 0 0 - 0
生態系 0 0 - 0
その他の項目 景観 0 + - +
人と自然の触れ合い 0 + - +
工事中の水の濁り 0 (-) - -
廃棄物 0 (-) - (-)
地球環境影響 0 0 - 0
歴史的文化価値 0 0 - (-)
地下水 0 0 - (-)

環境面から見て、可動堰案の場合には、多くの項目において環境影響が生じる可能性があると考えられる。現堰補修案及び直上流固定堰案に関しては、少数の項目で影響が生じる可能性があるものの、総合的に考えれば、可動堰案に比べて、遥かに環境影響が回避・低減されるものと判断される。したがって、代替案として適切であると考える。



4.総合評価(2)治水面の総合評価

計画案 現堰補修案 可動堰案 直上流固定堰案

治水計画

 

 

 

右岸深掘れ

洪水時の水位は斜め堰であるため,評価が分かれる.水位はほぼ現状と同じ.堤防補強により安全を確保する.

 

斜め堰であるため,右岸の深掘れ対策を行う.

洪水時の水位を下げることができる.

機械設備であるため,操作時に事故などの危険がある.

 

蛇行による深掘れは無くならない

直堰となるため,洪水時の水位を正確に評価できる.現堰を上流に移設するため,水位が低下し,計画高水位を下回る.

 

直堰とするため,右岸深掘れはほとんど無くなる.

堰本体工事費(老朽化)

魚道,損傷部分補修

30億円

710億円 300億円
堤防補強費(堰上げから堤防の安全を図る)

工事費  30億円

用地費 100億円

関連工事 20億円

合計  150億円

洪水位が十分低下するので堤防補強は不要である.
深掘れ対策費

根固めの追加など

20億円

直堰とするので右岸上流の深掘れは発生しない.
環境対策費 不要 支川浄化 20億円 不要
その他費用

護岸工事120億円

地下水対策70億円

用地費  30億円

護岸工事 60億円
合計工事費 200億円 950億円 360億円
維持管理費(年) 0.6億円 6.9億円 0.2億円

本体工事

 

仮設

現堰の維持管理

現堰撤去

工期 (  )...アセス試算

困難であるが既に建設省が行った実績あり.

小規模な仮堰

容易

不要

10年

 

高度な技術,大規模工事

大規模な仮堰

容易

水中施工であるため困難.期間が長い

10年

(15年)

固定堰であるため容易

小規模な仮設

容易

ドライ施工となるため容易

10年

現堰保存工事が必要


市民アセスの会代替案2案は、現堰治水上の問題解決という目的を達成できると同時に、経済的にも可動堰案に比較して優れた、実施可能な代替案であると考える。


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